変化への適応
株式会社小浜水産グループの挑戦
鹿児島県垂水市を拠点に、カンパチ・ヒラマサの養殖を中心に、海洋環境や社会環境などの変化に柔軟に適応することで発展を遂げ、「第18回全国青年・女性業業者交流大会」において、漁業経営改善部門で「水産庁長官賞」、「全国漁連海面魚類養殖業対策協議会会長賞」をダブル受賞された、株式会社小浜水産グループの小濵洋志さんにお話を伺いました

オバマスタイルとは?
まずは小浜水産グループと小濵さんについて教えてください
創業は昭和40年で、半農半漁の形で祖父が始めました。
カンパチ・ヒラマサ・ブリを養殖していて、最初はブリからスタートしましたが、
25年ほど前に父親が「これからはブリじゃない」と言い出して、収益性を考えてカンパチに大きくシフトしました。
私自身は、子どもの頃から垂水で育ちました。毎日のように海と魚と触れ合う環境にあり、小さな頃から父親の手伝いをしていて、気が付いたら生活の一部として養殖業がありました。小学生位からこの仕事をしてみたいと思っていましたね。
私は高校に行くのが当たり前の時代だったのですが、「稼げるのではないか」ということが頭にあったこともあり、高校に行かないで家業を継ごうかなと思っていました。
結局のところ、親からの説得もあって、大学に行きました。PCなどを駆使して養殖をする時代が来るのではないかということを考えて、大学も高校も電子科で勉強をしました。そして、大学を卒業して22歳で家業である養殖の道に進みました。
元々は地元でもそんなに大きな養殖業者ではなかったのですが、人と同じだと面白くない、新しいものは取り入れる、挑戦すると言うことは父親も含めて我が社の社風として昔から実践していました。
例えばみんなと同じことをやっていても一歩抜け出ることはできないと考え、それならば地元以外に漁場を広げようと他地域の漁協に足しげく通い、3つの漁協に属すということにも早くから挑戦していました。そうこうしているうちに今の会社規模になっていきました。
そうした挑戦の精神が、「第18回全国青年・女性業業者交流大会」での、「水産庁長官賞」、「全国漁連海面魚類養殖業対策協議会会長賞」につながっていったんじゃないかなと思っています。
オバマスタイルとはどんな養殖方法ですか?
簡単に言えば、適切な時期に適切な量だけ給餌するということですね。
昔は、1日2回、週に6日生餌を与えることが当たり前だったのですが、オバマスタイルの実践で1日1回、週3日適切な量給餌することで、品質を落とさずに、かつ、環境負荷も軽減させながらも早期出荷(夏場の出荷)ができるようになりました。
明らかに他の養殖業者よりも餌の使用量を減らしましたので、その当時は会社が潰れるんじゃないかと噂されていましたね(笑)。
一番身近な奥さんでも心配して聞いてくる状態でしたから、他から見たら余計にそう思われたのかもしれません。
適切な餌の量というのは本当に難しく、養殖業にとって餌代は最も大きなコストなので、最も効率よく魚を出荷サイズまで育てる「適切な餌の量」というのはとても重要です。少なすぎてもだめだし、多すぎてもだめで、本当に微妙な調整が必要でした。出荷までの試験を経て全漁場に応用するまで、3〜4年かけて試行錯誤の末に完成したのがオバマスタイルです。
昨今餌代等が高騰している状況ですが、このオバマスタイルを実践していなかったら今頃は大変だったと思いますよ。
養殖の業界では、たまたま今年は魚価が低かったけど、来年は上がるだろうという考え方が一般的にあったのですが、私は魚の価格の上がり下がりがあるとしても、下がったときでも利益が取れるようにしていくことが大事だと考えていました。

稼げる漁業を
行なっていくために
社会や環境の変化に対して、適応できることが大事だと思っています。
自分自身も地元の垂水だけでなく、違う漁場(根占)でも養殖をやることになりました。潮の流れも違うし養殖環境も全く違う、知っている人もあまりいない中で変化をしていくしかなかったです。
養殖業は新規参入が難しいので、守られていると言えば守られている業界ではあると思います。だからこそ変化ができない、できるけどやろうとしないという部分があるように感じるのですが、これからも生き残っていくためには『稼げる漁業』をやらないといけないです。そのために、自分も会社も変化し続けていく必要あると考えています。
変化していくことの原動力はなんですか?
原動力と言えるかはわかりませんが、いい魚を育てるということだけではなく、安定的に経営を持続させていけるように、稼げる漁業にしていくことが必要だと考えてます。
維持・発展させていくためには船や、機械などの設備投資をしながらうまく経営していく必要があるので、その資本を稼がなくてはなりません。
そして、働き方なども昔とは変わってきています。
次世代に養殖業をやりたいと思ってもらうためにも、その時代の変化に対応しながら稼げる漁業にしていくことはすごく大事なことだと考えています。
養殖をする際に気をつけていることはありますか?
消費者に食べられるまでを常に意識しています。
特に出荷は、魚の締め方や氷の使い方などを慎重にすることはもちろん、加工場からの魚の状態の情報収集や、顧客からの指摘に耳を傾け養殖現場で改善し続けています。
船に積んだら終わり、出荷したら終わりではなく、出荷してから消費者の方に満足してもらえているかまでがうちの魚なんです。
大手の飲食店等に出荷させてもらっているので、自分たちが育てた魚が全国でブランドとしてお客様に食べられているという意識をスタッフにも感じてもらうために、実際にスタッフを伴って飲食店に連れていくこともあります。
生きたまま出荷して、消費地近くの加工業者の海上生簀などで加工までの短い期間活かされて商品となって供給されるなど、自分の手を離れた期間を経て消費者へ届くケースが多い中、私たちは生産地で加工までしてから出荷しています。これによって、私たちがこだわって飼育した魚を最高の状態で消費者へ届けることを実現しているのです。

人工種苗の可能性に
期待しています
今後挑戦してみたいことはありますか?
現在、鹿児島県と地元生産者が協力して取り組んでいる人工種苗に期待しています。
カンパチは、天然稚魚の多くを中国から買っている状況なので、稚魚が獲れないと価格が高騰したり、そもそも養殖を続けられないというリスクが生じます。
人工種苗の取り組みがうまくいくことで、これらを解決できる可能性があるので、今後挑戦を続けていきたいと思っています。
また、人工種苗は親が育った環境で稚魚も育っていきますので、親次第では魚の高成長の可能性があるのではと考えています。現在2〜3割程度は人工種苗での養殖を実施しているのですが、真夏に天然種苗より丸みのある体をしているので、鹿児島の海に適応した魚が作れている可能性もあるのかもしれません。すごく楽しみです。

挑戦を楽しめる人と
働いてみたい
魚や水産業に興味のある方の、インターンなどは受入されてますか?
鹿児島の水産高校の新卒採用もありますし、大阪の海洋専門学校の子達をインターンで3人受け入れて、卒業後今も働いているケースもあります。大学生でインターンを経て入った子もいました。
水産や魚に興味がある方で、挑戦が好きで、一緒に楽しく働ける方であればぜひ来てほしいですね。
どういった方と働いてみたいですか?
自分自身、働き方も常に挑戦しています。
生き物を扱う仕事なので、毎日出勤が可能であればそうしたいですが、そうも言っていられません。この仕事において週休2日は大変ではあるが、そこにも挑戦してなんとかやれるようにしています。
そして、自分も変化させています。
今は従業員がのびのび前向きに働けるような指導を心がけています。昔を知っている人からすると変わったねーと言われます(笑)。
最近、スマート養殖をよく聞きます。現場へ落とし込むにはまだ課題がありそうですが、これが進めば省力化・生産性向上が見込める一方で、誰でも作れる画一的なものができ、出来上がりに差がなくなるように感じます。
それでいいのだろうか?そういった魚を作るのに、自分は必要ですか?という思いはありますね。
いいものを作りたい。
職人が作るここにしかない美味しい魚ということに今後希少価値が出てくると思っているので、日々挑戦してそれを楽しめる人と一緒に働いていきたいと思っています。
基本情報
- 施設名
- 株式会社小浜水産グループ
- 住所
- 〒891-2101 鹿児島県垂水市海潟2499-1
Googleマップで見る - TEL
- 0994-32-1140
- ウェブサイト
- http://www.obamasuisan.com/