地元で人気の
養殖ヒラマサをきっかけに
サスティナブルな取り組みにチャレンジする
「ふる里館」の挑戦
大隅半島の人気ドライブコースで有名な観光スポット「神川大滝」「雄川の滝」「佐多岬」などに向かう国道269号沿いに、鮮魚や魚の加工品を販売している「ふる里館」があります。ここは、錦江町でヒラマサ,カンパチを養殖している坂下水産が運営する販売所で,自社で生産した新鮮なヒラマサ、カンパチや、魚を使ったお惣菜が地元の方に愛されています。
取材時には、朝8時のオープンと同時に、地元のお客さんが買いに来る姿も見られました。
坂下水産の加工場がすぐ近くにあるため、捌きたてのヒラマサやカンパチが店頭に並びます。
商品開発から体験型観光ツアーまで手がけるふる里館の坂下奈津子さんに、魚をおいしく食べてもらうための取り組みや、持続可能な養殖漁業への挑戦についてお話を伺いました。

大隅半島の絶品
「ヒラマサ海鮮丼」
予約必須のこだわりの味
ふる里館の海鮮丼は、ヒラマサのおいしさが満喫できる贅沢な一品です。おおすみ水産振興協議会が開催した「漁師飯グランプリ」のために考案されました。奈津子さんは「考えるのが楽しかった!」と笑顔で話してくれました。
「あたたかいご飯の上に魚をのせると、魚が変色するため、裏面を軽く炙って焼き目を入れています。また、醤油をかけると色が悪くなるのでジュレにする工夫もしています。以前、卵の黄身をのせる海鮮丼を見たことがあり、その理由を聞いたところ、『生魚ばかりだと味の変化が欲しい』という答えがありました。そこで、卵に近い味わいを出すためにマヨネーズを使ったオーロラソースを天ぷらにしてのせました。この丼にはすべて意味があるんです。」
この豪華な海鮮丼は、ふる里館に事前予約をすれば楽しむことができます。地元の方からの注文も多く非常に人気のある一品です。
地元の魚を使ったお惣菜でご家庭に笑顔を!
ふる里館の「さかしたキッチン」
魚は新鮮さが命なので、ふる里館ではその日に捌いたものしか店頭に出していません。以前は、売れ残ってしまうことを避けるため、捌く量を少なくすることで、夕方前には売り切れてしまい、残念そうに帰るお客様も多くいたそうです。
そこで、捌く量を多くしても大切に育てられたヒラマサやカンパチがフードロスにならないように、奈津子さん達は加工品を作るようになりました。
「ふる里館では、さかしたキッチンという名前で,10種類以上の加工品を販売していて、特に魚フライが人気です。ヒラマサを使ったお好み焼きやコロッケも作っていますが、まだ珍しいためか、あまりピンと来ないのかもしれません。フライはよく知られている商品なので、買いやすいのだと思います。また、ヒラマサを使ったお好み焼きやコロッケも作っています」
と奈津子さんが話してくれました。
すべての加工品が 、あえて家で焼いたり揚げたりするひと手間が必要な商品設計にしてあります。ひと手間をかけることで、働くお母さんたちが、家庭の料理を加工品で負担を軽減させたという,罪悪感を感じずに済むようにしたいという思いが込められています。
さかしたキッチンの「みっくすミンチ」は、カンパチとヒラマサの栄養がたっぷり詰まっており、子どもに人気のハンバーグを家庭で簡単に作ることができます。
「加工品の商品開発では、今後はできれば常温で保存できるものを作りたいと考えています。魚を食べる機会が少なくなっている子どもたちにも、もっとおいしく魚を食べてほしい。そのため、食べやすく、一人暮らしの方や誰でも簡単に調理できるようにしたいと考えています。」

環境に優しい漁業の認証を取得した
サステナブルなヒラマサ
坂下水産のヒラマサは、すべて配合飼料で育てており、持続可能な養殖としてMEL認証を取得しています。
黒糖を混ぜた飼料を与えることで、ヒラマサの血合いの面積を小さくし、さらにミネラルが豊富な魚に育てています。
MEL認証とは?
マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)は、日本発の国際認証で、環境に優しい漁業を認証する制度です。製品にラベルを付けることで、消費者にその取り組みを伝え、その製品を積極的に選んでいただくことで、豊かな海を守りながら日本の水産業と魚食文化の発展に寄与してもらうことが目的です。
MEL認証には、養殖用、漁業者用、流通加工場用の3種類があり、坂下水産はヒラマサ養殖と流通加工用の両方で認証を取得しています。



また、加工場ではMEL認証のヒラマサのみを使用し、運搬の際にはMELと表示された入れ物を使うなど、MEL認証魚以外他の魚と混ざらないように厳しい基準を守っています。
魚嫌いな女の子も絶賛!
旬冷ヒラマサの美味しさ
坂下水産では、生のヒラマサを長期保存できるように,急速冷凍機に「3D freezer」を導入しています。一般的な冷凍では、冷気の当たり方で部位によって凍結速度に差が出て品質にムラができることがありますが、3Dフリーザーは-35℃で全方向から均一に冷やすため、品質が向上し、ドリップが出にくいことで臭みも抑えられます。


また加工場では、臭みを抑えるために加工用水にマイクロファインバブルを使用しています。
実際、坂下水産のヒラマサは魚の臭いが苦手な女の子からも「これなら食べられる!」と好評を得ています。
3Dフリーザーで凍結させてヒラマサは,ふる里館のオンラインショップでは「旬冷ヒラマサ」として販売されています。個食対応のパッケージで日々の食事の一品として使いやすく、賞味期限が生鮮に比べてかなり長いので、ストックしておいて好きな時に食べられることが特徴的です。

海の恵みを
余すところなく活用!
坂下水産のサステナブルな取り組み
ふる里館では、さまざまなサステナブルな取り組みを進めています。
例えば、レジスタッフが新聞紙で紙袋を手作りし、ビニール袋の使用を減らしたり、刺身に使う緑色のバランを入れないようにしたりしています。刺身のバランがなくても美味しさを損なわない自信があるため、バランを削減し、わさびや醤油も必要な方にだけお渡しするようにしています。
また、綺麗に洗ったトレイを持参いただいたお客様にはスタンプを押し、スタンプがたまると100円引きにするという取り組みも行っています。この日も、主婦のお客様が新品かと思うほど綺麗なトレイをたくさん持参してくださいました。
この取り組みは、ポイント還元や割引としてお客様にメリットがあるだけでなく、トレイを回収してリサイクルすることで、環境にも貢献しています。回収したトレイは仲買さんを通じてリサイクル工場に戻され、再び新しいトレイとして生まれ変わります。このリサイクルについて仲買さんに相談したところ、実現できるとわかり、回収を始めました。
この取り組みは、ポイント還元や割引としてお客様にメリットがあるだけでなく、トレイを回収してリサイクルすることで、環境にも貢献しています。回収したトレイは仲買さんを通じてリサイクル工場に戻され、再び新しいトレイとして生まれ変わります。
魚が観光にもつながってほしい
坂下水産では、一次産業である養殖から加工までを一貫して行っているため、漁業体験や地域の自然に触れ、地元の人々との交流を楽しむツアーを開催しています。鹿児島湾でのヒラマサやカンパチの養殖を見学し、新鮮な魚を一緒に捌いて調理し、楽しむ体験を提供しており、ブルーツーリズムとして開催しています。 今年に入ってからブルーツーリズムは3件実施しました。フランスや台湾からの団体が参加し、沖まで出たり水揚げを見学したりしました。参加者はレストランや商業関係者が多く、今度は私が台湾の店舗を訪問することになりました。現地では大隅半島のお酒も販売されており、非常に人気があるようです。 また、知人の紹介で銀座の有名レストランからも訪問があり、水揚げした魚の捌き方を見てもらい、さらに新たに取り組んでいるヒラマサの皮を紹介しました。
海の資源を活用した
フィッシュレザーブランド


坂下水産では、魚の皮を剥ぎ取るスキンナーという機械を使用して 、ヒラマサの皮を綺麗に取り出し、それを財布や名刺入れなどの製品に加工しています。捨てる部分を減らしたサステナブルなこの製品を東京で開催されるハンドメイドフェアで販売し、皮職人とのワークショップも行いました。丈夫なヒラマサの皮を美しい色に染めて作られる皮製品は、坂下水産の新たなブランドとして販売されています。 「坂下水産のヒラマサだからできることを地元錦江町の方々からの大きなサポートもあって実現しました。魚を加工して販売するだけでなく、無駄なく活用することが、私たちの店舗や地域全体、さらには鹿児島県としてのSDGs(持続可能な開発目標)の実現にもつながっていると感じています。」 奈津子さん達の様々な取り組みにより、坂下水産は、鹿児島県の第1回SDGs登録事業者として認定を受けました。 「私たちの仕事は、海に深く関わるものです。少しずつでもできることから始め、小さな取り組みをコツコツ続けることが大切だと思っています。お客様にも興味を持ってもらえるような持続可能な取り組みを、今後も挑戦していきます。」

社会貢献と
地域課題の解決を目指して
養殖場から加工場、販売所にオンラインストアまで揃えた順風満帆の坂下水産に、課題はあるのでしょうか?奈津子さんは地域社会に関わる課題についてお話ししてくれました。
「ふる里館まで魚を買いに来るお客様が減少しています。街から少し離れた地域の方々への対応が課題となっています。移動販売が可能な車も用意していますが、人手が足りず、稼働できていません。
来店できない方々には、健康上の理由や高齢化、認知症などの事情があり、それを考える機会がありました。各市町村では、地元の方々が集まってお茶を飲みながら交流する「認知症サロン」という活動が行われていることを知り、月に1回ほどその場に出向いて魚を販売しようと考えています。」
せっかく新鮮でおいしい魚が地元で売られていても、それを買いに来れなくなってしまった方がいることを、自社の課題としても考えています。
「このサロンへの参加をきっかけに、建築会社の社員や役場の職員、銀行員など、さまざまな職業の方々とグループを組んで活動することを考えています。たとえば、サロンの参加者が銀行の職員に年金の相談をしたり、建築関係者に「ちょっとあそこを直してほしい」と依頼したり、地域の課題を解決するきっかけができたら成功だと思っています。
「面白そうだからやっているだけ」という思いで始めたことですが、周りの方々も楽しんでくれるため、ますます楽しくなります。私一人では何もできませんが、みんなが一緒にやってくれるからこそ実現できていることです。」
奈津子さんのパワフルな行動力は、大隅半島のおいしい魚を食べて欲しいという願いと、家庭や地域が健康であって欲しいという願いが込められています。そしてその愛情は、元気なヒラマサやカンパチを育んでくれる海にも、持続可能な取り組みを通じて注がれています。
大隅半島に観光や仕事に訪れる際には、ふる里館に立ち寄って、愛情たっぷりの魚をお土産にしてみてはいかがでしょうか。
基本情報
- 施設名
- ふる里館
- 住所
- 〒893-2301 鹿児島県肝属郡錦江町神川780-1
Googleマップで見る - TEL
- 0994-22-2100
- 営業時間
- 8:00~18:00
- 定休日
- 第2、第4水曜日