売上を伸ばす
未利用魚活用とスマート漁業導入
水産業経営の次の一手

  1. 目次
  2. 定置網という漁業の魅力
  3. スマート漁業への挑戦
  4. 未利用魚から「ロコフィッシュ」へ
  5. 漁場環境を守るという課題
  6. 人材育成と未来への思い
  7. 網のリサイクル
  8. まだ始まったばかりの挑戦

鹿児島県内之浦で定置網漁を営む有限会社昌徳丸 定置網部門代表の柳川拓哉さんは、市場価値がつきにくかった魚にブランド価値を与える取り組み「U-Loco Project(ウロコプロジェクト)」と、漁業現場の労働負担を軽減する技術導入の両面から経営改革を進めています。

海洋環境の変化、燃油価格の高騰、人材不足など、水産業を取り巻く環境が厳しさを増す中、「売上の拡大」と「コスト・労働の最適化」を同時に実現する試みは、これからの水産業経営にとって重要な示唆を含んでいます。

柳川さんの取り組みや思いなどを伺い、未利用魚の価値向上による売上創出と、ICT技術を活用したスマート水産業による操業効率化という二つの視点から、水産業経営の新たな可能性を探ります。

定置網漁師として海に向き合い続ける柳川拓哉さん

内之浦の港に係留される昌徳丸の漁船。ここを拠点に日々の操業が行われている

定置網という
漁業の魅力

柳川さんは20歳頃から漁業に携わり、祖父が始めた定置網を引き継ぎました。現在の漁場は、かつて「ここでは成功しない」と言われた場所だったそうです。

「場所で8割決まると言われるんです。でも自由な場所に定置網を設置することはできません。それなら、残り2割は工夫しようと思いました。」

網の構造や設置方法を改良し続けた結果、水揚げは徐々に向上していきました。

「最初は全然獲れませんでした。でも結婚して家族を養う責任ができた頃から、本気で取り組むようになりました。」

定置網漁は自然条件に左右される面が大きく、ある意味では“ギャンブル”に近い側面もあると言います。

「魚がたくさん入ったときは、脳が興奮状態になっていると思います。とにかく、確率を上げる努力、つまり工夫が必要だと感じました。100%自然任せじゃダメだと思っています。」

柳川さんは魚類に限らず、昆虫や植物など生きもの全般、特に生態に関心があるそうです。自宅には熱帯魚や植物専用の部屋を設けるほど。生きものへの真摯な眼差しが、漁の方法への工夫にも繋がっています。

スマート漁業への挑戦

柳川さんは近年、ICT技術を活用した「スマート漁業」にも取り組んでいます。

具体的にはブイに搭載されたソナー機器によって魚群の状況や潮の流れを遠隔で確認できる仕組みです。デモ機をレンタルして検証してきました。

「魚の反応がない時や潮流が速くて網を揚げることができないときには、現場に行かず陸上で判断ができるので、燃料の節約にもなりますし、作業の効率化にもつながります。」

柳川さんは「定置網って汚れる仕事ですよ。臭かったり、暑かったり、体力がないと無理な仕事です」と笑います。

「僕らの仕事は魚を獲る仕事と思われるけれど、網を絞って魚を獲るのはせいぜい8時間労働の中で1時間程度。残りは船で移動したり、市場に水揚げしたり、船を掃除したり、漁具の整備や網修理をしたり。」

網は海の中で汚れるので、定期的にとりかえて陸上に持ち帰って洗わないといけません。臭いもあり、網の汚れも飛び散るので、洗浄作業は決して楽ではありません。しかし、その積み重ねが柳川さんの言う「確率を上げる」ということにつながっているのです。

少しでも効率化をしたい、というのは水産業に携わるすべての人にとっての願いでしょう。スマート漁業の導入は待ち望まれるものの、機器は高価で導入例はまだまだ少ないのが現状。そしてそれを使いこなす現場のノウハウの構築もまた大変なのですが、操業の合理化や労働負担の軽減につながる可能性がある以上、水産業への未来への投資とも言える分野と言えます。

機器を購入し、2026年2月から本格的な運用が開始されるとのことで、今後の成果が楽しみです。

未利用魚から
「ロコフィッシュ」へ

定置網漁業において水揚げされる魚の中には、市場で評価されにくい、いわゆる未利用魚が一定割合存在します。サイズや知名度、流通構造の問題などにより価値がつかず、十分に活用されてこなかった、捨てられてきた魚種です。

柳川さんが進める「U-Loco Project」。U(=You:消費者)+Loco(=Local:産地)でU-Loco(=鱗)と読み、『1枚1枚が繋がり重なり合うことで形成されていく、鱗のように。1人1人が繋がり力を合わせることで地域の課題を解消する仕組みを作っていきたい』、そんな想いが込められています。

そのプロジェクトの第一弾が未利用魚に新たな価値を与え、収益源へ転換する取り組みです。

「一昔前から“未利用魚”という言葉はあったんですが、どうしても“利用されない魚”という印象が強い。かわいそうな名前ですよね。だから名前を変えようという話になって、“ロコフィッシュ”と呼ぶようになりました。」

ロコフィッシュのロゴ

このネーミングは従業員の発案だったそうです。現在は商標登録も行い、ブランドとして展開しています。対象となる魚種は非常に多く、サメ類やエイ類をはじめ、一般にはあまり知られていない魚が中心。オンライン販売サイトやSNSを通じて全国の飲食店や消費者へ発送しており、売上の10〜15%を占めるまでに成長しています。

「決して安売りするわけではありません。この魚にはこれだけの価値がある、と自分たちで価格をつけています。」

代表的な魚の一つがギンカガミ。ロコフィッシュのイメージキャラクターにもなっています。銀色に輝く、薄っぺらなフォルムが印象的な魚で、英名ではムーンフィッシュ。塩焼きや煮付けでも美味しく、飲食店からの評価も高いそうです。

ギンカガミ

「(ギンカガミは)うちのエース。決して高級魚とは言えないかもしれませんが、捨てることないでしょうって思っています。」

これは単なる販路拡大ではなく、価格決定権を持つ経営への転換とも言える取り組みとも言えるでしょう。

漁場環境を守る
という課題

「U-Loco Project」では漁場の復活への取り組みも重要と考えています。近年、海藻が減少し、魚のすみかが失われつつあることは各地で課題となっていますが、海洋環境の変化は水揚げに直結する経営課題でもあると言えます。

「気づいたら海藻がほとんどなくなっていたんです。ウニが増えて食べてしまうという話も聞いていましたが、実際に対策するのはとても難しい」と柳川さん。

海藻の種苗を設置するなどの試みも行ってきましたが、成果を出すには時間と労力が必要で、現場では大きな課題の一つだと感じていると言います。

また、海のごみ問題についても強い思いがあります。

「海にごみを捨てるのは当たり前じゃないはず。海がどんどん汚れていくのを子どもの頃から見ていて、すごく嫌でした。その思いが今に繋がっている気がします。」

最近では、海藻を海に定着させて藻場造成する方針から、考え方を広げようと思っているそうです。

「山に木を植えるという方法も検討しようかなとも考えています。魚は山陰に向かって来る、といわれており、昔から定置網は大きい山があるところに設置するものでした。それは山から植物性プランクトンが流れてきて、それを動物性プランクトンが食べて、その数を増やし、そのプランクトンを小魚が食べる。そういう食物連鎖が豊かな漁場をはぐくむと考えているんです。」

内之浦湾には豊かな森からの滋養が流れ込んでいます。そのことが内之浦の海を豊かにしてきました。豊かな海を守るために、森を守ろうという考え。すなわち生態系循環の回復という長期的な視点です。

すぐに収益につながる取り組みではありませんが、将来の漁獲を支える基盤づくりとして捉えている点が特徴的です。

人材育成と
未来への思い

「U-Loco Project」には大学生のインターン受け入れも含まれています。数日間の体験を通して、漁業に関心を持ってもらうことが目的です。

「すぐに就職につながるとは思っていません。でも、経験した学生が大学に戻って発表することで、将来、水産業の現場に興味を持つ人が出てくるかもしれないし、うちに来てくれる人もいるかもしれないと思っています。」

背景にあるのは、将来への危機感と言います。

「魚がどれだけ減っているか、一般の人はなかなか体感できていないと思います。スーパーに並んでいる魚を見るだけでは分からない。でもこのままだと、将来、魚が食べられなくなるかも、と私たちはそのリスクの大きさを体感しています」と語気を強めます。だからこそ、資源を大切にし、価値を高め、持続できる漁業を目指す必要があると考えています。

網のリサイクル

「U-Loco Project」では、漁網のリサイクルについても検討を始めています。まだはじめたばかりで、具体的な解決法は見出せていないと言います。

「網はリサイクル方法がはっきりしたものが確立されていません。埋め立てしかないのが現状です。」

産業廃棄物として処理される、大量の網。再利用してエコバッグにするなど、さまざまな手法を試してはいるものの、根本解決には至っていません。

「再利用した商品を買った消費者さんが、いずれそれをゴミとして捨てますよね。結局どこに行き着くのかって考えたときに、再利用は最適解なのか?と疑問に思っていて……。」

日本中、世界中の魚食を支える「網」。魚を獲るのに不可欠なものでありながら、その処分の有効策は見出せていないのが現状です。明解な答えがなくとも、柳川さんは日々、考察し、試行しています。いつか地球にも人にも良い方法が見つけられると信じて。

まだ始まったばかり
の挑戦

「U-Loco Project」も、スマート産業の導入も、まだ始まって3年ほど。取り組みはじめたきっかけは鹿児島県の「漁業士会」に入ったことだそうです。漁業士とは「これからの漁業の模範となるような方々」を指し、県が認定する制度です。

柳川さんは、漁業士会で参加したイベントのテーマが未利用魚の活用だったことで、未利用魚に興味を持つようになったそう。そして気づけば「未利用魚、ロコフィッシュの活動を広げていかないといけない」、という使命感が生まれてきたのだそうです。

幼い頃から魚が大好きだったという柳川さん。「とにかく魚が好きな人じゃないとこの仕事はできない」と言い切ります。

「僕が漁師として従業員に言っているのは、魚を獲っているのは、一人一人、自分たちが獲っているんだよってことです。それを言い聞かせるようにしています。自分が修理して、自分が仕掛けた網で、これだけの魚が入った、ということ。一人一人が魚を獲っているんだよって気持ちが大事だと思っています。だから、魚がたくさん獲れたときは、従業員に配るようにしています。配って食べてもらって、『美味しいよね』っていうことを再確認してもらうんです。」

柳川さんは「定置網が好き」と言います。それは「魚を獲ることを目的にしているものの、定置網は待ちの漁業で、網を揚げるときまでは魚の出入りは自由。
そして網を揚げるときにそこにいる魚だけを獲る、つまりは一網打尽にするのではなく、一部だけ獲る環境にやさしい漁業だから」だそう(定置網漁業の紹介はこちら )。魚を獲ることを生業としつつも、魚を獲ることだけを目的としていない、その根底にあるのは「魚が好き」ということなのでしょうか。

柳川さんがプロジェクトを行う上でたいせつにしていることは?という問いかけに対して、真剣な目で答えます。

「いのちを大切にするということですね。」

魚への、海への思いは「生」への眼差しが根底にありました。

魚を、生きものを愛し、海を愛しているからこそのプロジェクトの数々。そしてそれは会社の運営にも、後進の指導にも、一貫して通底している思いだと感じます。
そんな柳川さんに今後の展望を伺いました。

「定置網は続けていきますし、『U-Loco Project』もより広めていきたい。ロコフィッシュが美味しいってことも知ってもらいたいし、次世代の人たちが魚を食べられるように海の資源も守っていかなきゃいけない。同時に養殖にも興味があります。いきなりは無理でしょうけれど、陸上で蓄養をできたり、魚を生かして管理し、出荷調整とかもできたらいいな、という風に考えています。」

柳川さんの取り組みは、水産業の資源的そして経済的な持続可能性の実践そのものだと言えます。未利用魚を宝に変え、操業を合理化し、豊かな海という資源を守り育てていく。昌徳丸の取り組みは、日本の水産業「獲る産業」から「経営する産業」へ進化していく可能性を示しているのです。

基本情報

施設名
昌徳丸
住所
〒893-1402 鹿児島県肝属郡肝付町南方
ウェブサイト
https://shotokumaru.base.shop/
通販サイト
https://shotokumaru.base.shop/
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